投げ銭の恐怖

中国の「直播」という投げ銭ビジネスから学ぶ巧みな課金の仕組み

皆さんは「投げ銭」と聞いてどのような印象をお持ちでしょうか?
おそらく下心みえみえの男性が美しい女性ライバー(演出者)に金銭を投じる、いわゆる実入りのない、“出銭の一方通行”の愚かな行為と思われる方が多いと思います。中国ではという投げ銭サイトが幾つかありますが、ご存知の通りワイセツな画像や映像は政府が厳しく規制しているのでサイトそのものは健全です。私も最初はくだらない暇つぶし程度の遊びだと思っていました。しかし世界がコロナで外出が制限された2021年のある日、中央TV放送で「農村の青年がマンション購入費用として貯めていた約120万元(日本円で約2400万円)を直で失った」という驚愕のニュースを目にしました。「え~っ?そこまでの巨額を投じてしまう要因は何なのか?」という疑問と好奇心が重なって、もしかしたら”愚かな行為”という言葉だけでは片付けられない特別な仕組みがあるのでは?と自分を説得できない状態に陥りました。ならば、とりあえずは体験してみよう~!と、潜入調査を理由付けとし(笑)、その未知の世界を覗いてみました。


直播サイトの選択と登録

ライブ配信のサイトは複数存在したので、現地友人の勧めに従い「YY 」waiwaiというサイトを選びました。ライブ映像そのものは、IDがなくてもVisitorとして無料閲覧ができるので、閲覧だけなら支払いが発生することはありません。サイトに入口にはライバーのサムネイル画像が並び、画像右下の数値はその日の累積閲覧者数との事。売れっ子だと数十万人にも及びます。


しばらくはVisitor閲覧のみでいくつかのライブルームを視聴。YYのサイトを紹介してくれた友人からは以下の注意事項を伝えられていました。

基本的に画面上のライバーは多かれ少なかれ「画像加工アプリ」のフィルターを通した虚像である。美しい女性はずべてつくりものである。
ライバーの大半は表向き生活を支えるための副業やアルバイトを活動目的としているが、実際の私生活では派手な生活をしいていて売れっ子になるとBMを乗り回し高級マンションに住んでいる(なんと~)。
推しのメンバーが集まってWechatのグループ(後援会のような)組織が作られている場合があるが加入すると寄付の呼びかけなどがある。

最初の項目に関しては、当時日本で流行っていたInstagramの投稿写真からも想定範囲内でした。シワ消し、脚長調整。。。でも実際のライバーに会うこともないので、アニメのキャラクターと思って見れば、それ自体はなんの違和感もありません。人間はいつも美しいものを見たい本能があるので。。。ちなみに当時「世界三大偽装技術として、韓国の美容整形、日本の美顔器、中国の写真加工技術」なんて言われていました。

IDを登録~WALLETをサイトと紐づけ

IDは当然ながら課金を目的としているので、Wechat(微信)かAllipay(支付宝)のどちらかのWalletと紐づけが必要。Protopal(仮称)でアバターは、大好きな鬼滅の刃“冨岡義勇”のキャラを拝借。このアバターを選択した時点で、調査の建前はもはや薄れ、“推しの精神”がどんどん膨らんでいたのかもしれません(やばい)

左の画像はタブレット端末でのアクセス画面。とあるライバーのルームにエントリした状態のものです。チャットボードには「ようこそProtopalさん」(実際には中文)と表示され、それに合わせて、ライバーさんからも直接声掛けがあります。最上段にはこのライバーさんへの投げ銭上位者ポイントランキングが表示されています。No.1ランカーになれば、当然のことながらライバーさん本人からも注目されるので、推し側にとっては小さな優越感です。ライブ中はランクは常に変動します。


チャットボードに書き込みを挑戦してました。文字列(スレッド)が高速で流れていってしまうチャットボードで、中文の文字入力を素早く行う必要があります。外国人にとってはハードルが高いです。売れっ子の部屋での発言(文字入力)は、ほぼ不可能だと思います。なんといっても若者言葉が多用されています。また、チャットは入室者のすべて公開されているので、チャットの相手はライバーさんとは限りません。ときには別の推しからも文字によって話しかけられます。「ねぇ、Protopalさんはもしかして外国の人?」とか。(あら~!やっぱりバレバレだ~)

投げ銭は贈り物キャラクタで投げます。左図はほんの一部。例えば飴を投げると、ライバーの口元に飴の画像が現れます。また丘比特qiubite(199Y币:キューピット)を投げた推しがいれば、画面上にアニメのキューピットが現れて弓矢を放つといった演出もサイトに仕組まれています。

よくよく考えると、そんな仕掛けのどこが面白いの?と、思ってしまいますが、その場で投げて、それに対してライバーさんの「謝謝」のリアクションをもらえたときのほっこりした感覚は麻薬になります。

投げ銭用のポイントは、あらかじめ紐づけしていたWalletから随時チャージする仕組みになっています。いざ贈り物を投げようとしたときに、残高が不足していないようについ多めにチャージしてしまいます。贈り物という形で投げさせることで不思議とキャッシュは単なる数字(ポイント)に置き換わってしまい感覚が麻痺します。(もしかしたら、自分は”推しの才能”あるのかもしれません:笑)いや、笑い事ではないです。

PKという罠

チャットボードでの対話、ライバーさんの歌や踊りを視聴する合間に、何度かのPK(ライバーさん同士の演出合戦)があります。ライバーさんが他のルームのライバーさんにPKの申し込みをして、受け側が承諾するとPKがスタートします。

左側のオレンジ帯の画面が自分が入室しているライバーさん、青帯画面は対戦相手。PK開始時に帯は画面中央のゼロの位置にありますが、推しが投げ銭をするとそれに応じて帯が長くなり相手画面に侵入します。文字通りの推し合戦になる訳です。青帯に押されると、「助けてあげないと!」と、対抗意識が頭の中を支配します。魔物です。


PKの持ち時間の設定は演出によって異なるようで、3分~10分くらいを半分づつシェアします。タイムアウト時点でポイントが少ない方に5分程度の罰ゲーム(画像いじり)が課せられます。右下は土を食べているアニメが罰として合成されたもの。罰の画像種類は幾つかあって、画像選択権は勝者側でもっと多くのポイントを投げた推しが決めます。

単なるソフトウェア上でイラストを重ねているだけなのに、罰を受けてるライバーさんがなんとも気の毒で。。。それは、相手方もライバーさんに対しても同じく悲しい気持ちになります。
実はPK中に対戦相手の画面をタップすると、敵と味方が瞬時に入れ替わる機能もあります。対戦相手側が極端な劣勢になる場合があり、そんなときはタップして相手側にワープし、投げ銭をした事もありました。(両方のライバーに課金するなんて、完全にビジネスの罠にハマっていますね)いかん、オレは調査でこのサイトに来ているんだ、と自分に言い聞かせます。

自分の応援ライバーが敗者となって、いじり画像を受けた場合に、推しは「お酒」(アルコール洗浄?)というオプションでそれを消すことが出来ます。左図は「ブタ鼻」の画像をお酒で洗浄するところです。もちろん、この「お酒」も投げ銭です。(よくできてますね)

収益の仕組み

さて、推しとしては、自分の応援の量(お金)が、どのくらいライバーさんに流れているのか?が気になります。もちろんライバー側はプラットホーム側の手数料の歩合は運営側から口止めされています。ですので確かな情報ではありませんが、一部のライバーさんからWechatで聞き出せたので、簡単に紹介しておきます。

まず、ライバーは推し側と同様にライブ提供側として簡単にID登録ができます。初期参加のライバーさんの場合は推しの人数が少ないので、50%程度が運営側に引か0れるらしいです。100元投げたらライバーは50元受け取るという事ですね。
売れっ子になってポイントのノルマを達成すれば一時金も支給されるらしい。


ライバーの大半は個人の部屋をスタジオにして、スマホとパソコンの併用でライブ提供をしているようですが、プラットホーム側は本人の要求に応じて、ライブ演出装置、スタジオなどのレンタルサービスも行っています。すなわち、投げ銭の一部を手数料として収益にしているだけでなく、装置の貸出費用なども徴収しているという事です。更に踊りなどをレッスンしてくれる教育制度もあるとの事。投げ銭族だけでなくライバー側も巻き込んで稼いでいるという事です。恐ろし過ぎる~!

終わりに

潜入調査といいながら、かなりの出費を伴ってしまいました(反省)投げ銭族は演出やトークを楽しんだ分をお金で支払っていると思えば、一種の娯楽ではありますが「応援する喜び」という人間の心理を巧みに利用して収益化しているのはあまり健全とは言えずちょっとずるい気もします。SNSではなくサブスクでもない不思議な仕組みです。でも今後もこのようなビジネスは増えるような気がするので、浪費した費用は学習費だったと思うことで自分を慰めます。
最後に落ちではないですが、チャージしたお金は退会時にIDを抹消しても、返金されませんでした。「おいおい、詐欺じゃん!」 失礼しました~。

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